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2020年春からのコロナ禍にあって、最もダメージを受けているのが、飲食店と観光業です。七尾市においても地元で人気のイタリアンレストランが惜しまれつつ閉店し、空店舗となっていました。そんな中、その場所に東京から移住してきた若きシェフが、フレンチレストラン「のとふれんち ひのともり」を今年4月にオープン。七尾市小島町に文字通り新たな灯をともしたオーナーの日野貴明氏に心意気を伺いました。
金沢で生まれ3歳まで暮らすも、両親の転勤でその後は東京で育った日野氏。幼少期に食べていた祖母の手料理がとても美味しく、大好きだったことが、料理に興味を持った原点ということです。大学に進学したものの、勉強よりもアルバイトが楽しく、地元立川にあるホテルのレストラン厨房でのアルバイトを半年あまり経験。そこから目黒区内にあるミシュラン2つ星のフレンチレストランに移り、2年あまり働きます。そのタイミングで、総務省のワーキングホリデーに参加し、行き先候補リストの中にあった石川県珠洲市の猫がいる食堂が目に止まり、珠洲暮らしが始まります。最初の半年間は、珠洲市の古民家食堂「典座」の坂本氏が経営する長橋食堂で海鮮丼などを作る料理人として働き、その後、場所を借りてフレンチレストラン「ひのとキッチン」を1年間の期間限定でオーナーシェフを務め、仕入れから経営までを自ら行う経験を積みました。その間に、能登の新鮮な海の幸、愛情込めて育てられた山の恵みを食材として使った経験が、その後の日野さんの人生を後々大きく左右することになります。「毎日がとにかく楽しく、あたたかい地元の人たちに囲まれ、振り返ってみると、自分の人生においてとても貴重な経験になりました。」と顔をほころばせます。
東京での厳しい下積み時代のことを思うと、珠洲での1年半の仕事と暮らしは、日野さんにとって文字通りオアシスだったようです。そんな珠洲での仕事は、期間を区切っていたため、そこから一旦知人のいる福岡に移り、道の駅にある鮮魚店で半年あまり働きます。その後東京に戻り、これからどうしたものかと思案する日々を過ごしていたところ、能登で縁のあった人たち、能登の風土の魅力、居心地の良さがじわじわと蘇ってきました。『やっぱり能登で店を持ちたい・・』との思いが強くなり、そわそわし始め、そこで駄目で元々とフェイスブックに「能登にレストランの居抜き物件がないですかぁ・・」と発信。すると珠洲でお世話になったある方から、「七尾市にイタリアンレストランの居抜き物件があるよ」と返信が届いたのです。昨年まで営業していたイタリアンレストランへ食事に一度行ったこともあった日野さんは、いいお店という印象が残っていたこともあり、『こんないい物件はない!!』と居ても立ってもいられない気持ちに。早速、七尾の現店舗を見に来るや即断即決でした。幸いなことに、珠洲で働いていた時の貯金があったことから、自己資金で改装工事費用等を全て賄えたといいます。以前のお店はカラフルで明るい内装だったが、改装に伴い、木をふんだんに使った店内に生まれ変わり、シンプルだけど温もりと清潔感を感じさせてくれる、何とも心地よい空間「のとふれんち ひのともり」ができあがりました。
自分自身の名前である日野(ひの)、能登、灯すという言葉遊びが、「ひのともり」という店名の由来です。フレンチレストランの店名は、よく分からない横文字の店が主流ですが、日野さんは日本語を大切にしたい、誰にでも読んでもらえ、分かりやすく親しみやすい、優しいイメージ等々の観点から、あえて平仮名で「のとふれんち ひのともり」と命名しました。この地に、自分にしかできない自分色の灯をともすとの心意気の表れでもあります。コロナ禍にあって、業種的に最も厳しい飲食店をオープンさせることへの不安はなかったのだろうかと思い、その点を伺うと、「不安は全くなかったです。とにかく自分の店を持ちたいという思いが強く、コロナが終息すれば右肩上がりになっていくことに賭けました。」と目を輝かせ、常に前向きな日野氏。
2021年4月オープンにあたり、まずは地元の方々に自分の店を認知してもらうことが第一と考え、テイクアウトのお弁当販売からスタートしました。から揚げ弁当やサンドイッチ弁当などを、七尾市のななおに掛けた「七尾弁当」と命名し、770円で販売。チラシなどは作らずSNSで発信するも、最初はなかなかお客さんが来ず、「スタッフと売れなかった弁当を食べる日が続き大変でした。」と苦笑。やがて購入してくれたお客様の口コミで徐々に来店客が増え、用意した分は完売するようになり、テイクアウトのみを実施した1ヵ月間で400食あまり売れたといいます。その間に内外装の改装工事が終了し、5月1日から店内での食事の提供をスタート。オープンから1週間の期間限定で、ワンプレートランチを1,650円で提供したところ、ゴールデンウィークの時期とも重なったこともあり、連日ランチタイムは2回転する満席状態で大盛況。この時に来店したお客様の口コミがその後の商いに大きく貢献しています。
可能な限り能登の海で水揚げされた魚、能登の里山で栽培された野菜を使うことを心掛けていますが、あえてメニューにそうした記載をし、お客様に押し売りするような表現はしていません。その日の食材の顔を見ながら、これまでの経験で習得した様々な食材の調理法とそれに合うソースの組み合わせを考えながらレシピを決め、その日のお客様の顔を思い浮かべながら、全力投球で創り出されたメニューを自然体で提供しています。ランチタイムはお一人様3,300円、5,000円、8,000円。ディナータイムは5,000円、8,000円、10,000円(10,000円のみ3日前までの要予約)のフルコースを提供しています。リピーター客も少しずつ増え始め、七尾市周辺だけでなく、金沢市からも訪れています。コロナ禍でのスタートで、この環境が当たり前と思って日々取り組んできている日野さんは、「誰もが平等にコロナ禍にさらされているわけで、そんなに大変だと思ったことも感じたたこともありません。売上もおかげさまで何とか目標ラインを維持できています。」と、厳しい環境が続いている中にあって、前向きに取り組んでいます。
金沢市、野々市市、地元七尾市で開催されるイベントに、機会あるごとに積極的に参加し、出張料理人としてローストビーフ丼や七尾弁当などを調理販売しながら、他地域の人たちに自分の顔と料理を知ってもらうことにも努めています。そこでの出会いがきっかけとなり、七尾の店に来てもらうことにつながっていけばとの思いで頑張っています。ネットの時代だけに、自ら発信するSNSもさることながら、お客様が料理の写真や感想を発信してくれることで、相乗効果でじわじわと認知度がアップしてきています。「昔のようにオープンの広告宣伝費を使わずともお客様が宣伝して下さり、新聞・雑誌の取材でも取り上げていただけ、周りの皆さまが応援して下さる有り難い環境です。」と感謝することしきり。
東京のホテルやレストランでの修業時代、高いお金を払えば美味しい料理は食べられれますが、その食材はその地で獲れたものではなく、実際に産地に行って獲れたての新鮮な食材で料理することが料理人としてのあるべき姿ではないかと自問自答し始めていたタイミングで、総務省のワーキングホリデー事業に出会い珠洲市にやってきた日野氏。珠洲の典座で1年半あまり働きながら暮らした中で、本当に多くの方々との人脈の輪が広がり、その時の能登での日々が日野氏の脳裏に強烈に焼きつき、再び能登へと日野氏を導いたわけで、昔から言われる「能登はやさしや土までも・・」という言葉を体現されているように思えてなりません。まだ23歳という若さで、バイタリティー、やる気、好奇心旺盛な日野氏が、能登・七尾の地で、誰もが一度は訪れたくなる唯一無二の日野ワールドを駆使した「ひのともり」を創り上げていく、これからの躍進が楽しみですね。
日野 貴明シェフ
店名 | のとふれんち ひのともり |
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シェフ | 日野 貴明 |
住所 | 七尾市小島町大開地1-5 |
電話 | 0767-58-6214 |
営業日 | 不定期 (随時SNSにて告知) |
SNS | @hinotomori770 |
その他 | 予約すれば、オードブルなどのテイクアウトも可能 |