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2020年春、世界に拡散した新型コロナウイルス感染症。この感染拡大によって最もダメージを受けたのは料飲業界に他なりません。コロナ前の2019年に金沢市武蔵で「神社Bar HOLY」を開店した堀川明広氏にとっても、コロナ禍は想定外のダメージでした。全国的にも珍しい神社をコンセプトとしたこだわりのバー経営についてお話を伺いました。
神社をコンセプトとするバーを経営するということは、実家が神社で自身も神職を務める傍ら、神社に興味を持ってもらいたいとの思いから店を持ったのだろうか・・と勝手な想像をしながら、金沢エムザ裏手の細い路地を進んで行くと、入口に鳥居が鎮座し、周囲に異彩を放つ建物が目に止まりました。ドアを開けて中に入ると、物腰ソフトなオーナーの堀川氏が笑顔でお出迎え。こじんまりした店内に、カウンター席とボックス席が配置された一般的なバーの造りですが、愛らしい招き猫とミニ鳥居、賽銭箱が置かれています。カウンターに歩を進めると、正面の高い位置に神棚が鎮座しており、まずは軽く一礼して着席。神棚の下には、神話の故郷である日向の国(宮崎)の高千穂や神を想起するような日本酒と焼酎の銘柄が並んでおり、そこから目線を下に落とすと、全国の主要な神社を収録した「神社百景DVDコレクション」のケースが整然と納められていました。
堀川氏は、金沢のサラリーマン家庭で生まれ育ち、社会人になると全国チェーンのファーストフード店に就職しました。10年あまり勤めて店長職を経た後、料理を勉強するためエスニック系のインドネシア料理店に転職して店長兼料理長を務め、その後、独立を決意。いろんな人と知り合える接客の仕事が好きなことから、好きなことを仕事にしたいと、現在のバー経営に舵を切りました。自らの店をどんな店にするか考えた時に、子供の頃から日本史が好きで、歴史小説はもとより古事記も愛読書であることに鑑み、自分の好きな歴史と商売を関連づけできないだろうか、そして日本の文化や伝統を自分のバーから発信できないか。そんなことを思い巡らせ辿り着いた答えとして、神社をコンセプトとした「神社Bar HOLY」が2019年6月8日に誕生しました。
店を持つまでは片町で働いていましたが、自分の店をどこにオープンするかを決めるにあたり、金沢駅から片町まで歩いてみたところ、武蔵のあたりであれば、ビジネスホテルやリーズナブルなホテルが林立している好立地であり、観光客にも寄ってもらえる確率が高いと考えました。そうして金沢駅と片町の中間地点となる武蔵地区の物件に決まります。オープンするにあたり、ホームページを作成し、SNSを活用して神社Bar HOLYの情報を発信したところ、「想定していたとおり、観光客がネットで検索して来店してくれるようになり、並行して地元のお客さんが次第に常連客になっていただいています。」と顔をほころばせます。お客さんの中には、SNSでこんなユニークなバーがあると発信してくれることで、さらなる誘客効果も生まれています。石川県内の神社やパワースポットを堀川氏が紹介し、県外のお客さんから地元の神社を紹介され、時には堀川氏が出掛けていくこともあるとのことです。昨年からのコロナ禍で、県外からの旅行者が激減し、今は少なくなっているものの、それでも県外から金沢を訪れた人がふらりと立ち寄ってくれ、中には福岡県からのお客さんもいるそうです。客層を伺うと、20歳代から70歳代まで、幅広い年齢層とのことで、このあたりもなかなかユニークさが伺えます。
カウンター内の棚には、高千穂、天孫光臨、神武など、神話の故郷を想起させる銘柄のお酒が並び、営業時間中は堀川氏が神主の装束を着てもてなしてくれます。ウイスキーはジャパニーズウイスキー、ジンはジャパニーズジンといずれも国産にこだわり、北陸のご当地ウイスキーなども揃えられております。営業中は神社百景のDVDが流され、厳かな空間に生まれ変わります。天井から下がるプロジェクターを使えば、ガラス越しに店の前を通る人たちに神社百景の映像を放映できるようにもなっています。武蔵という場所柄からか、週末よりも平日の方が賑わうそうで、平日で1回転半する日も珍しくありません。コロナ禍以前は、その内の3割程度を観光客が占め、当初の読みが的中したようです。平均的な客単価は3千円前後。おつまみは、IHやノンフライヤーで作れるものに限定されますが、可能な限りお客さんの注文に応えるのが堀川氏のモットーです。カウンターには昔懐かしい駄菓子類が並んでいて、その前に置いてある小さな賽銭箱に小銭を入れて1個ずつ購入するスタイルで、神社の縁日感を醸し出しています。
コロナ禍になって観光客の売上は激減するも、「コロナ禍の間は地元のお客さんに支えられて何とか継続してくることができ感謝しています。まん延防止等重点措置が適用され、営業ができない時は、常連客の仲間内でオンライン飲み会もやりました。」と振り返ります。神社に興味がなかったお客さんでも、映像を見ながら話しているうちに、次第に関心を示すようになり、「今度○○神社に行って来るよ」と言って、実際に行ってきた土産話をしに再来店されるケースもあるそうです。日本在住の外国人夫婦が来店した時は、旦那さんが神主、奥さんが巫女のコスプレで鳥居の前で記念写真を撮影していくといったこともありました。武蔵地区に飲食店は多くあるものの、食事の後に立ち寄るバーが意外と少ないこともあり、地元住民から重宝がられている一面もあります。「金沢市武蔵・バー」で検索すると、上位に神社Bar HOLYが表示されるようSEO対策を実践している効果もあって、県外のお客さんの大部分は、ネットで検索してこの店を見つけて来店しています。縁日気分で綿菓子を作れるマシンも置いてあり、そのうち来店したらまずはおみくじを引いて、ウェルカムドリンクサービスやおつまみ1品無料なんていうお楽しみが付加されれば、さらに盛り上がるのではないでしょうか。コロナ禍が終息すれば、集客アップにつながるユニークなイベントや常連客との神社参拝ツァーなども企画したい考えで、神聖なる神社をコンセプトに、堀川ワールドを広げていくべく、誘客企画にも余念がありません。
堀川 明広氏
店名 | 神社Bar HOLY |
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代表者 | 堀川 明広 |
住所 | 金沢市武蔵11-5 |
電話 | 090-1394-5343 |
URL | https://holyreiwa0608.wixsite.com/barholy |