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山中温泉で250年余  医王寺に湧出する仕込み水で酒を醸す  松浦酒造有限会社

印刷ページ表示 更新日:2021年12月9日更新

 

松浦酒造有限会社

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石川県には34銘柄の日本酒を醸造する蔵元があります。その中の1つで、山中節の一節「薬師山から湯座屋を見れば、獅子が髪ゆて身をやつす・・・」に由来する「獅子の里」ブランドで知られる松浦酒造。その創業は安永元年(1772年)、2022年には創業250年目の節目を迎える老舗蔵元。十四代目当主兼杜氏の松浦文昭社長に、歴史ある老舗の商いの秘訣を披瀝いただきました。

 

コロナ禍でも安定した商いの秘訣

2020年春以降のコロナ禍で、飲食店や旅館が営業できず、同社においても卸売り部門は、コロナ前と比較すると3~4割減になっています。とはいえ、同社の売上の4割が小売、酒販店への卸が3割、旅館・飲食店への卸が2割、残りの1割がネット販売のため、卸のウエイトがそれほど大きくなかったことが不幸中の幸いでもありました。バブル期までは山中温泉の旅館の多くが得意先でしたが、バブル崩壊を経て倒産する先が出始めたことから、先代が大口の取引先だけに頼る商いから、取引先の間口を広げることに注力し、関東方面の居酒屋チェーンや飲食店を開拓。お酒の試飲会や勉強会を定期的に開催し、県外の取引先との人脈づくりに努めてきたことが奏功し、厳しい中でも堅実な商いを続けてきています。さらに松浦社長の代になってからは、東京で開催されるお酒の見本市に出店することで、獅子の里の魅力を新たな顧客に知ってもらうと同時に、新規取引先を開拓することに努めています。


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お酒の風味が変化した原因究明に8年を要す

松浦社長が松浦酒造に入った当時は、杜氏の高齢化が深刻な問題で、なおかつ後継者もいなかったことから、自らが勉強してオーナー杜氏になる道を選択します。最初は酒づくりのことは何も分からず、年齢的に自分の祖父のような杜氏たちに少しでも心地よい環境で働いてもらえるよう、日々蔵の掃除に明け暮れていました。ところが、その頃からできあがるお酒の風味や味に変化が生じるようになり、美味しくなくなったことで、多くの取引先を失う事態に陥ります。どうしてお酒の風味が変わってしまったのか、いろいろ検証してみるも、なかなか分かりませんでした。8年あまり経った時に、麹の醗酵過程で消毒に使っていた塩素系の殺菌剤が傍にあったことで、味や風味を醸し出すいい菌が化けてしまい、カビのような香りになっていたことが原因だと判明します。こうした現象は、フランスでもワインのコルクの消毒に塩素系の薬剤を使っていたことで、カビのような香りになっていたことを、日本より8年も前に突き止め解決していました。ところが、日本の醸造業界と繋がりがなかったためにその情報が入らず、日本では未解決のままだったのです。この現象は、平成9年頃に始まり、原因が解明されたのが平成17年で、8年あまり日本中の酒蔵がこの問題に苦しんでいました。この問題が消費者に知られていないのは、醸造過程での香りの変化を活性炭で分からないように消していたからとのことです。塩素と合板のフェノール樹脂と糀菌の三つが揃ったことが、この香りの変化を起こした原因。それ以降、塩素系殺菌剤の使用をやめ、酸素系殺菌剤を使用するようになります。

 

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瓢箪から駒を出す

食品業界において、器具類等の消毒に推奨されているはずの殺菌剤の影響で風味が変わってしまった間、何とか元に戻せないものかといろいろ酒造りの工程で試行錯誤を繰り返していた中で、特徴を失ってしまったお酒をもう一度瓶の中で二次醗酵させたら、新鮮な香りが蘇るかもしれないと思い立ちました。早速、試してみたところ、うまくいくのを通り越し、泡がたくさん出てきたといいます。試行錯誤した中の偶然の産物として、現在、人気のシャンパンのような発泡系日本酒が誕生しました。今ではあちこちの酒蔵が発泡系日本酒の商品を販売しているが、20年以上前に発見した同社がその先駆けだったのです。「スパークリング系の日本酒を造ろうとは全く思ってもおらず、いろいろと試していた中で本当に偶然できたもので、従来の日本酒とは異なる新商品として、おかげさまで好調に推移しています。」と顔をほころばせます。

     

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軟水の仕込み水で、料理に合う食中酒を醸す

「商売としては、問屋を介して大量に販売できればそれに越したことはないのですが、日本酒は生き物であり、要冷蔵で新鮮な香りをお客様にお届けしたいとの思いが強く、それを実践すると自ずと生産量には限度があります。」と胸の内を吐露する文明氏。コロナ禍の影響で、コロナ前までの年間280石の製造量が、いまは3~4割減のため、なおさら量を追求する商いは難しく、自ずと品質第一、お客様満足度第一の酒造りに専念しています。日本酒の仕込み水は、通常その地域の山から流れ出し、地下を通って湧き出る伏流水を使っている蔵が一般的です。その場合は、堆積する石を通過する過程でカルシウムが多く含まれ、いわゆる硬水が湧き出ます。一方、同社の仕込み水は、裏山にある医王寺の境内に湧出する超軟水のわき水を使っています。硬水は含有されるカルシウムの作用で、酵母が香りを出すのに対し、軟水は香りが出にくいかわりに穏やかなお酒に仕上がることから、料理を引き立てるお酒・食中酒が同社の真骨頂なのです。

 

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アメリカ人女性が松浦酒造で蔵人体験

山中温泉にある和酒バー「縁がわ」の主人で酒匠でもある下木雄介氏が、日本酒の講師としてニューヨークに行った際のホームステイ先が、ニューヨークでライター&フードスタイリストとして活躍しているハナ・カーシュナー熊谷氏の家。その時に二人が意気投合し、帰国時にハナ氏を山中に連れてきました。最初はバーテンダーとして、お客様に日本酒を提供していたが、いろんな職人たちと知り合う内に、作り人のことを本にしたいと思い立ったそうです。そこで、いろんな職人の仕事を体験しながら、日本の伝統文化を本にしようと、その体験の一つとして同社で仕込み作業に参加し、蔵人の仕事を体験。その後、山中漆器の盆の制作、狩猟体験、茶道体験など、山中温泉で体験した日本の伝統文化を、体験ストーリーとしてまとめた本「Water,Wood,and Wild Thigs(水と木と野生のものたち)」をアメリカで出版。それが縁で、その後も毎年仕込みの時期になると、山中温泉を訪れ、蔵人を務めています。

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堅実に連綿と受け継がれる商いに邁進

「お酒の製法は複雑で、繊細かつ緻密ですが、原料はいたってシンプルで、酒米、仕込み水、糀(微生物)だけ。お米のもつ自然なパワーを最大限引き出し、料理といかにうまく合わせられるか、そのベストマッチングを追求し、料理とお酒の相乗効果で、ふくらみが増す酒造りに自然体で向き合っています。」と、朴訥と語る松浦社長の人柄が、獅子の里のお酒に反映されていることは言うまでもありません。スパークリング日本酒には、デザートやスイーツにも合うことから、さまざまな料理とのマリアージュにも積極的。獅子の里の酒粕を使った酒粕ソフトクリーム、同社のお酒を使ったチョコレートボンボンも商品化。食品メーカーと酒粕を使った即席の粕汁の商品化にも取り組んでいるところとか。本業である酒造業から離れることなく、とはいえ時代の流れに柔軟に順応できる体制を常に意識し、小さな酒蔵だからこそできる他社との違い、差別化を日々追求し、どんな時代にあっても独自色のある商いに邁進し、300年、400年と「獅子の里」が伝承されることを願わずにはいられません。
 

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店舗情報


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                   松浦 文昭社長

商号 松浦酒造有限会社
代表 松浦 文昭
住所 加賀市山中温泉冨士見町オ50番地
電話 0761-78-1125
URL http://www.shishinosato.com