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小松市平面町の小松明峰高校駐輪場手前に、「北海道名産品販売・産地直送」の立て看板を掲げる店「ちりめん工房 楓(かえで)」がある。ここは小松市内をを中心に北海道の海産物、珍味、手作り弁当や総菜を軽自動車に満載して販売する移動販売の拠点。コロナ禍になり、新規事業を立ち上げ、スタートから3年目を迎え、ようやく軌道に乗り始めた「ちりめん工房 楓」の中山由香里さんを訪ね、お話を伺った。
ちりめん工房楓は、繊維のちりめんを扱う(株)西合繊の工場の敷地内。若い時から長年にわたり繊維の業界で働いてきた由香里さんの父・西肇二さんが、平成8年に廃業した精練所を譲り受け、ちりめんに特化して独立創業。しかしながら、リーマンショック以降、繊維の業界の厳しさが年々増してきていたところへ、令和2年春からコロナ禍になり、「これ以上事業を続けていても先が見えないと判断し、新規事業進出を決めました。」と肇二さん。コロナ禍前から、エステの有資格者である娘の由香里さんが、「ちりめん工房 楓」の店名で、ちりめんの衣料販売とエステを営み、繊維事業も手伝っていたが、このあたりが潮時と判断し新規事業に舵を切ることに。
コロナ禍になった当初、日本中でマスク不足が深刻化し、高額で売買され、なかなか入手するのが難しかった。その時、肇二さんが奥さんの出身地である北海道余市町の親戚に自社のちりめんマスクを送ったところ、先方も海産物の販売がコロナ禍で激減して困っていることを知る。そこで渡りに船と北海道の海産物を仕入れて、店先で販売すると同時に、車に積んで移動販売する新たな事業に取り組むことに。とはいえ、これまでやったこともない商いだけに不安だらけの船出。肇二さんが軽ワゴンの荷台から、力のない女性でも楽に引き出して商品を陳列し、販売を終えたらそのまま簡単に荷台に収納できる手作りの陳列棚を製作。由香里さんは移動販売車がやってきたことを知らせるBGMの選曲と、車の側面に移動販売車「楓」の大きなシールを貼り付け準備が整う。
移動販売車の準備は整ったものの、あてもなくただ走るわけにもいかないことから、あちこちでビラを配りながら、知人やお客さんの伝手を頼り、事業所やデイサービス施設の了解を得て、少しずつ販売先を確保。小松市が高齢者向けに実施している健脚体操の会場となっている公民館に飛び込み営業で行き、参加者に販売したところ好評を得る。そんな由香里さんの地道な努力が実り、日を追うごとに行く場所が増えていく。小松市内を中心に南は加賀市、北は能美市までを範囲に、月曜から金曜まで毎日40kmあまりを移動販売している。今では事業所やデイサービス施設、公民館だけでなく、お客さんの自宅の軒先やカーポートを借りて近所の人たちに販売するところも増えている。
スタートして半年ぐらいは、真空パックの干物や珍味のみを販売していたが、お客さんからの総菜やおかずも持ってきてほしいとの声に応えるため、国の補助金制度を活用して厨房設備を整え、県の補助金制度で真空パックの機械を導入。調理師免許を持つ由香里さんと母親とで手作りした煮物や総菜、焼き魚、フライや天ぷらを小分けパックにして販売をスタート。毎日メニューを変えていることから、デイサービスに来ている方々から、「夕飯のおかずにありがたい。」と好評を得ている。それに続いて、お弁当を作れないかとの要望を受け、手作りの総菜や煮物、天ぷらなどを詰め合わせた弁当の販売を始めたところ、コンビニ弁当では味わえない愛情弁当として人気で、価格も500円~630円と手頃とあって、1日平均15食前後がコンスタントに売れている。おかずの詰め合わせとおにぎりも人気とか。
店舗のすぐ横が小松明峰高校の生徒たちの駐輪場になっていることから、授業や部活を終えて帰宅する腹ペコ生徒たちに、テイクアウトで食べながら帰宅できる商品づくりを考え、おにぎり、唐揚げを窓越しに販売している。日が暮れて暗くなると、テイクアウト窓口にLEDのデコレーション照明を点灯させ、誘客の工夫をしている。さらに、父の肇二さんが焼き鳥販売もスタート。常に熱々の焼きたてを提供することをモットーに作り置きはしない。そのため、20分あまり待ってもらわなければならず、できるだけ電話で予約してもらい、受け取り時間に合わせて焼き始めるスタイルを定着させてきており、まとめて20本30本と購入する常連さんも。
コロナ禍の厳しい経済環境になったことで、国や県が手厚い中小事業者への支援を拡充してくれたことが奏功し、補助金を活用して設備等を充実することができた。ただ、近年の世界情勢の影響により、食材をはじめ、プラスチック容器や燃料量などの価格が高騰しているため、利幅が少なくなってきているのが現状。母娘二人で作れるお弁当やおかずには限界があるが、人を雇うことは考えていない。そのため、家族だけでこなすことができる現状を維持していくことが最善策。移動販売を始めて3年が経過し、行く先々に常連さんができ、買物に行くことが大変な高齢者から「今度いつ来る?今度あれ持ってきて・・」と言われることが、母娘にとっての大きなやり甲斐に。これからも母娘の手づくりの愛情料理とお弁当で、待望している多くの方々に、雨にも負けず、猛暑にも負けず、雪にも負けず笑顔を届け続けてもらいたい。
店名 | ちりめん工房 楓 |
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代表 | 中山 由香里 |
住所 | 小松市平面町ヘ11番地1 |
電話 | 0761-21-0107 |