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金沢駅西口から金沢港に通じるけやき大通りの駅西本町三丁目交差点を右折し、1つ目の信号を過ぎた左手に平屋建ての白いお店がある。ここが、知る人ぞ知る焼き菓子とベーグルの店「HUG mitten WORKS(ハグミトンワークス)」。朝の開店から夕方の閉店まで、多くの女性客が連日途切れることなく訪れる人気店。オープンから13年目を迎え、金沢を代表する繁盛店のオーナー畑美里さんにお話を伺った。
金沢生まれ金沢育ちの畑さんは、東京の短大を卒業すると都内の和食レストランに就職する。その後、エスニック料理やイタリアンの店で働き、自らの店を持つことを目標に邁進する。26歳で三軒茶屋にカフェダイニングをオープンし、開業資金は親からの支援も受けたが、5年ほどで2号店となるワインバーもオープン。20代で商才が開花し、東京に小さいとはいえ2店舗を構えるオーナーに。とはいえ、夕方から明け方近くまで働き続ける日々が続く中で、都会暮らしに疲れはじめ、地元金沢に戻ることを考え始めるように。金沢に帰ると決めたタイミングで、ワインバーの常連客でコンビニのバイヤーの人が、畑さんの手作りスコーンやベーグルを気に入り、コンビニで販売するクッキーの商品化を打診される。金沢に帰ることを伝えると、金沢で工房を構えて本格的に製造することを懇願される。
東京都内では土地も人件費も高くてとても工場を建てることは無理だったが、金沢で納屋を改装し、小規模ではあるが焼き菓子を製造する工房を構えた。こうして金沢での菓子作りがスタートしたのが遡ること13年前のこと。コンビニに納める仕事だけ確保して帰ってきたものの、コンビニの仕事は季節商品とはいえ関東圏にあるコンビニに納めるため、膨大な数の商品を作らなければならなかった。そんな日々を送る中で、地元金沢でお菓子屋として全く認知されていない商品が、金沢のお菓子屋の商品として東京で販売されていることに、違和感を覚えるようになった畑さんは、東京のコンビニに卸す仕事は3回受けただけで断り、自らの手作り商品を地元金沢の人たちに知ってもらう商いに舵を切る。工房を改装し、「ハグチャイワークス」の店名で、チャイと焼菓子とベーグルのカフェを開店すると同時に、自ら金沢市内の雑貨店を営業して回り、手作りの焼菓子を置いてもらうことから始める。やがて評判を聞きつけた地元のタウン誌で紹介されると、徐々にお客さんが増え、口コミでファン客の輪が広がり、順調に売上が伸びてきたことから、遡ること6年前、親族が所有する空地に現在のハグワークスの新店舗をオープンした。
世の中には様々なお菓子が溢れているが、大手メーカーが工場で製造する大量生産では、どうしても輸入原料が主流となり、食品添加物や保存料が使用され、母親が子供のために愛情込めて手作りするものとは全く異なることは否めない。自らも娘を持つ母親として、子供に安心・安全で美味しい手作りの焼き菓子やベーグルを食べさせたいとの思いが根底にあり、原材料はできるだけ地元産のものを使い、添加物等は可能な限り使用せず、愛情を込めた手作りのお菓子づくりに邁進している。そんな母親が子供を優しく包み込むようなモノづくりに対する愛情が、当店の商品を買い求めるお客さんたちにも自然と伝播し、根強いファン客に支持され、今では全国に商品を卸すまでに成長している。
オンラインストアでは売上全体に占めるウェイトはまだまだ少ない状況ではあるものの、畑さんのアイデアで生まれた「おせちクッキー」は毎年大好評で、予約販売をスタートすると、見た目の本物そっくり感やインスタ映えが人気となり、500~600セットが即完売となる年に一度の大ヒット商品となった。おせちクッキーって何?と思われるかもしれないが、以下の写真をよく見ていただくと、かまぼこ、れんこん、ごぼう、昆布巻き、しいたけ、伊達巻、黒豆、にんじん、田作りが全てクッキーで忠実に再現されている。あまりの精巧な仕上がりに驚くばかり。これを見ると、畑さんの手先の器用さが一目瞭然。インスタグラムやフェイスブックでは、これまで畑さんが生み出してきたユニークなデザインや形のお菓子やケーキがアップされているので、ぜひご覧あれ。
店頭販売と売上を二分するまでに伸びてきているのが、直接または商社を介しての全国へのクッキーの卸販売。金沢市内の人気雑貨店、セレクトショップ、金沢駅Rintoはもちろんのこと、今では北海道から九州まで広範囲のショップに販路が広がっている。現在12名のスタッフがフル稼働で製造にあたっているものの、常に納品の順番待ちの忙しさで、2か月待ちのところもあるという。焼き菓子と並んで人気のベーグルは、できたての風味を損なうことなく冷凍可能で、冷凍販売で卸している取引先が県内・県外を問わず増えてきている。金沢で畑さんが1から始めた商いが、今では全国で商品が販売されるまでに急成長しており、秀でた商才の持ち主であることの証である。
朝早く起きるのが苦手で、娘にお弁当を作ってあげられるだろうかと心配だった畑さんだが、ある時、世の中には子供に弁当を作ってあげたくても忙しくて作れない人、一人暮らしの男性など、お弁当難民がきっといるだろう。何よりも自らが娘に愛情弁当を毎日作る母親になりたいと思い立ち、親御さんが子供に作る愛情弁当をキーワードに、使い捨て容器ではなく、お弁当箱に手作り料理を詰めるお弁当づくりを代行する「DAIBEN」事業を立ち上げる。と言っても畑さんが、午前5時半に起き、一人ですべて調理し、早い人で午前6時半に受け取りに来るお客さんに手渡しする、畑さんが一人ですべて完結させる事業。使い捨てではない弁当箱にすることで、手作り感をかもし出している。今のところは近隣に住む人や、通勤時に店の近くを通る人などが利用している。焼き菓子とベーグルの製造が忙しいことから受注を抑制中だが、早朝に作れる人がいれば、人を増やして本腰を入れることも検討中。
以前、店内に20席あまりのカフェスペースがあったが、コロナ禍で外食が厳しくなった時点で、テイクアウトの商品に切り換え、予約販売のランチボックスを推し、順次テイクアウトメニューを充実させ、カフェの売上を超えるまでに。食材は地元の契約農家から新鮮な野菜が届くため、そうした野菜を使って弁当のおかずだけでなく、ベーグルやケーキの具材に使うなど、食材のロスが出ないよう工夫している。春以降は、しいのき緑地や本多の森公園などで開催される地元のイベントにも出店。規模が大きいイベントの場合は、お店を閉めてスタッフ総出で対応している。店頭並びにイベント、卸業務、弁当事業、オーダーケーキの4つを柱に、畑さんのハグワークスの世界は、年々その輪が大きく広がってきており、本業をベースに枝葉を伸ばしていく一環として、新たな飲食の店をオープンさせることも思い描く。「毎日SNSでお店の情報発信をするのが楽しくて仕方ないです。」と笑顔で語る畑さん。心地よいぬくもりで顧客を包み込むハグワークスの今後の展開が楽しみである。
店名 | 株式会社ハグ・ワークス |
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代表 | 代表取締役 畑 美里 |
住所 | 金沢市駅西新町1-1-29 |
電話 | 076-207-9096 |
URL | https://hug-works.com/ |