本文
香林坊大和で21年間、婦人服の接客・販売を経験したのち、子供のころから大好きで得意な小物づくりの特技を活かし独立起業した竹岡恵理子さん。白・紺・赤の3色で描かれたかわいいワンちゃんのオリジナルキャラクターの看板が目印の、金石街道沿い松村町にあるお店「POCHI-エリ。」を訪ね、お話を伺った。
幼いころから母親の愛情がこもった手編みのセーターや手作りの洋服、クッションカバーやこたつカバーといった手作り小物に囲まれて育つ。小学校の低学年の頃から、自分の作ったフエルトのぬいぐるみや、かわいいビーズのアクセサリーといった小物を友達にプレゼントして、喜んでもらえることが嬉しくてまた作るといった、みんなと遊ぶより自分の世界を持つ子供だった。そんなこともあり、その当時流行っていたハウスマヌカンに憧れたものの、高校3年の時に父親が他界したため、服飾専門学校に進学する選択肢は諦め就職することに。どこに就職するか思案した中から、地元でナンバー1の百貨店である大和を選択する。入社時に、百貨店の催事企画やショーウインドウの装飾などを担当する企画部門を希望するも婦人服売場に配属される。
何事も前向き、プラス思考で考える竹岡さんは、接客のプロとして、お客様のあらゆるニーズにパーフェクトに対応できる人間になることを心に秘め売場に立ち始める。さまざまな婦人服売場を経験する中で、繊維の素材がどのようにして出来上がるのか、縫製工場の現場を学び、素材ごとのメリットやデメリット、色の組み合わせパターン、お客様の体型に合わせて肩の部分の補正や、妊婦さんの場合はお腹周りの関係でワンピースの裾が上がってしまうのを補正するなど、お客様一人ひとりの体型やその服を着る目的、お客様の好み等々あらゆるデータを頭の中で組み合わせ、お客様から「ありがとう」の一言をいただくため邁進する。さらに、お客様に似合う色を提案できるようになるため、色彩検定を取得すべく、勤務後、夜間の専門学校に2年間通った頑張り屋。何事にも一生懸命な竹岡さんはやがて同僚や上司から慕われる存在に。さらに自分を磨くため、当時全国に30名ほどしかおらず、百貨店の推薦状がないと受験できなかったフィッティングアドバイザー(旧 百貨店プロセールス資格) 1級を取得すべく、連日の猛勉強の末に合格する。
大和に入社して15年を迎えた頃には、ラルフローレンの店長やフロアリーダー、課長代行を兼務し、忙しい日々にやり甲斐を覚える。婦人服売場には、ブランドの商品を仕入れて販売するショップとは別に、仕入れから販売まですべて社員が行う自主運営売場があり、仕入れ、ディスプレイ、販売、在庫管理といった一連の販売管理を学ぶ場があった。自分たちで考え、お客様の声を活かして品揃えをする経験ができたことが、今日の竹岡さんの商いの糧となっている。
多くのお得意様を持つベテランの域に入ろうとしていた入社20年目に、人間ドックで病気が見つかり、2か月間の休養を余儀なくされる。その時、大和を辞めか、残るかの二者択一を迫られる。会社からは復職するよう慰留されたものの、その当時、小松大和や新潟大和が順次閉店する厳しい時期で、人員整理が進められていたことから、自分が身を引くことで新人が採用された方が売場のためになると判断し、退職を決意する。
退職してやることがなくなってみると、自分はいかに接客が好きな人間かを思い知らされる。そこで、どこかの販売員に行こうかと思ったものの、ナンバー1の大和で勤めただけに他へも行けず悶々としていた時、元同僚から「得意な手作りの商品を作って販売してみたら・・」と、金沢駅の地下広場で開催されるクラフトイベントのチラシを見せられる。モノづくりをしているクラフト作家が50人あまり集まって、手作り商品を展示販売する「雑貨・作家マーケット」のイベントだった。それならと一念発起し、1か月間で150点あまりのオリジナル商品を作り上げ初出店する。その時に店名をどうしようかと考え、大和時代に婦人服のオーダーサロンでデザイン画を描いていた方が、竹岡さんを「ポチ」というあだ名を付けて娘のようにかわいがってくれ、その方は、残念ながら他界されているが、自分のことを思ってくれていた人がきっと見守ってくれるに違いないとの思いを込め、店名を「POCHI-エリ。」に。いざ出店してみると、大和の元同僚やお客様が50人余り買いに来てくれほぼ完売し、大満足な成果をあげる。その時、大和の元上司から「そんなことやってみても絶対失敗するから、大和に戻ってこい・・」と再び慰留されたことで、竹岡さんは逆に『自分の商品で絶対百貨店に出てやるぞ!』と自らに誓う。
横安江町商店街で開催されていたマーケットに出店していた時、偶然にも、当時ISICOのアドバイザーをしていた大和時代の元上司が通りかかり、「自分の店を持たないの?」と声をかけられる。その時点ではまだ店を持つことは考えていなかったが、「これで満足しているのなら別にいいかぁ・・」と言われた一言に、メラメラと闘志が燃え上がり、『よし、自分の店をもってやる!』と決意する。そして、その元上司が講師を務める創業塾に出席することに。その翌日、たまたま現店舗の大家さんが、「POCHI-エリ。」のお客さんで、一緒にランチをしていた時に、1軒物件が空いている話をしていたことから、「空いているなら私にそこ貸してください。」と、信頼できる大家さんの物件なら絶対大丈夫!!という思いが後押しし、物件も見ずに契約。後日、物件を見に来てみると、もう中も外もボロボロな状態で、下水設備もなく、改装にかなりの費用と8か月あまりの時間を要したが、自身の好きな白・紺・赤の色味を使ったかわいい店舗に生まれ変わる。改装期間中は、イベントに参加しながら、創業塾に通っい勉強を重ね、その頃からISICOでもいろいろな面でサポートを受けている。
メイドインジャパンの数多ある生地の中から、竹岡さんの眼鏡に叶ったかわいい生地を、コロナ前は東京の生地問屋へ足を運んで仕入れていたが、コロナ禍になってからはネットを駆使して確保している。それにしてもよくこれだけカラフルなデザインの生地やかわいらしい柄の生地があるものだと感心させられるバリエーションの豊富さだ。同じ生地でも、柄のどの部分をメインに使うか、そこがセンスの見せどころで、製作にとりかかる時は、一気に20~30点分を裁断し、アイロンをかけ、縫製をして仕上げるといった、一人流れ作業に明け暮れる日々を送っている。好きこそ物の上手なれとは言うものの、これだけのアイテム数の商品をすべて手作業で、なおかつ一人でこなしていると聞き、子供のころから布に触れていると落ち着く性分とはいえ、日々モノづくりに没頭する姿には脱帽する。
固定客が増えてきたことで、オーダーも沢山入るようになり、親子ペアの商品もいろいろ増え、オーダーで生まれた赤ちゃん用のポンチョ、暖かい室内履き靴下、スマホの時代に合わせた指が全部出る手袋などが人気商品となっている。男性向けでは、かわいい柄の小銭入れやスマートフォンケース、眼鏡ケースなどが売れ筋とか。各商品の値札を見ると、あまりにリーズナブルな価格設定に驚かされる。すべて手作りの商品だけに、これでは手間賃も出ないのではないかと伺うと、「私の分身でもあるかわいい商品を、できるだけ沢山の人たちに愛用していただきたいと思うのと、子供たちがお小遣いやお年玉で買える価格帯の商品を多く作り、子供同士でプレゼントし合ってもらえたらとの思いもあっての価格設定です。かわいい物を持つと幸せな気持ちになれるので、一人でも多くの方にそんな気持ちになってもらいたい。」と顔をほころばす。
コロナ禍の補助金を活用して大きな看板を掲げたところ、散歩している近所の方や、車から自転車通勤の方までが来店するように。コロナ禍でイベントがなくなった反面、看板の効果もあって近隣のお客さんが増えてきている。同時に、県の新分野チャレンジ補助金を活用してお店のホームページも充実することができ、竹岡さんにとっては不幸中の幸いとなる。同時並行して、ISICOの専門家派遣を通じて「POCHI-エリ。」のかわいいキャラクターを前面に打ち出したいことに気づき、デザイナーと相談しながら店舗オープン時に作り上げたこのキャラクターを商標登録するところまでこぎつける。飛騨高山と東山のお土産店に商品を卸していたのが、コロナ禍でストップしたことから、県の飲食観光関連補助金を活用し、「POCHI-エリ。」の一連のキャラクターグッズも誕生する。創業時に、友人と高山に遊びに行き、こんなお店に自分の商品を置いてもらえたらいいなぁと友人と話していたところ、後日、偶然にもそのお店の店長が名古屋のイベントを訪れ、竹岡さんの商品が気に入って商談が成立。東山のお店は、大和の元同僚がオーナーと知り合いで置かせてもらえることに。竹岡さんの第二の人生においても大和時代の人脈が大いに貢献している。
ISICOの「いしかわ起業小町」のサイトに載っている竹岡さんの記事が、たまたま仙台の百貨店(株)藤崎のバイヤーの目に止まる。元大和にいた女性なら是非と声がかかり、ISICOの仲介もあり、(株)藤崎の物産展に「POCHI-エリ。」が初出店し、好評を得る。自分の商品で百貨店に出ると決意してから12年の歳月を経て、その一大目標が実現する。ネット販売で全国のお客さんへとの思いもあるものの、日々商品づくりに追われていることから、次々と商品を撮影してホームページにアップしていく時間がなく、商品の更新に時間がかかることがネック。とはいえ人を採用すると人件費が発生するというジレンマが。百貨店で商品が売れるようになれば、さすがに一人ですべてやるのは難しくなることは目に見えるものの、竹岡さんが全て手作りしている商品だからこそ、「POCHI-エリ。」のファン客がいるのも事実。これをどう乗り越えていくかが大きな課題となっている。これからも大和で身に付けた様々な経験や知識、接客、そして元同僚や元上司の方たちとのつながりを大切にし、かわいいアイテムで一人でも多くの人に幸せな気持ちになってもらいたいと、1点1点愛情こもった手作り商品を世に送り出す「POCHI-エリ。」の、さらなる飛躍に心からのエールを送らずにはいられない。
竹岡 恵理子さん
店名 | POCHI-エリ。 |
---|---|
代表 | 竹岡 恵理子 |
住所 | 金沢市松村1-12 |
営業 | 11時~18時(不定休) |
電話 | 076-205-6467 |
URL | https://pochi-eri.com |