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人が生きていくために不可欠な第一次産業(農業・林業・水産業)において、高齢化や後継者難が深刻な問題として顕在化している。とりわけ石川県においては、奥能登と白山麓で生まれ育った若者が、都会へ働きに出てしまい、高齢者世帯のみが生活する限界集落化が散見されるようになってきている。そんな時代にあって、白山麓の自然に惚れ込み、合同会社山立会を立ち上げ、里山の魅力を次世代に伝播すべく邁進している同社代表社員の有本勲さんにお話を伺った。
幼少期から父親と京都舞鶴の山へ度々遊びに行っていた影響で、自然が好きだった有本さんは東京農工大農学部に進学。大学2年の時に専門課程のコースを決めるタイミングで、好きな山に行く機会が多そうな林学科を選択。3年になると研究室に配属になり、そこでも山に行く機会の多い森林生物保全学研究室を選択し、ツキノワグマの研究を始める。2004年に富山県でクマの大量出没が発生し、富山県から同研究室にクマの生態調査依頼が舞い込み、クマの生態調査を卒業論文として取り組んだのが有本さんのクマ愛の原点。修士課程に進み、引き続き2年間富山県でクマの生態調査に没頭したのち、北海道の環境科学研究センターでヒグマ調査のアルバイトに行き、1年間北海道でヒグマが何を食べているのか胃の内容物を調べるなどヒグマの生態調査に明け暮れる。その後、東京農工大大学院の博士課程で、東京奥多摩山地のクマの生態調査に3年間取り組む。通算9年余りクマの生態調査に明け暮れ、就職先も決まらず思案していたタイミングで、白山自然保護センターで嘱託職員を募集していたことから、2011年に石川県に移住する。
嘱託職員のため2年半後に退職。その間にご縁ができた白山麓の観光推進に取り組む白山ふもと会に転職。石川県で最初に猪の食肉を処理してジビエに加工して販売する事業に取り組む。ハンターが狩猟してきた猪を運んでは捌いてジビエに加工する仕事に追われ、年によってバラツキはあるものの年間に150~400頭あまりの食肉処理をこなす。白山ふもと会は、地域活性化を目的に活動していることから、ジビエの販売価格が安く、利益があまり出ないため人を増やせない現実があった。一方で、有本さんは借入をしてでも人を雇って事業を広げたいとの思いが強かったことから、白山ふもと会を退職し、自ら独立してジビエだけでなく、白山麓の魅力を発信する事業を始める決意を固め、2017年に山立会を立ち上げる。
スタート当初は、白山ふもと会からの委託業務として、野生動物の解体処理をできる人が有本さんしかいなかったこともあり、猪や鹿、クマの食肉処理をしてジビエに加工する仕事が大部分を占めていた。それに加えて、石川県及び白山市からの野生動物調査の仕事も請け負う。同時並行して、木滑地域の高齢化が進み、木滑なめこの仕込みを始めとした重労働が難しくなっていたことから、そうした作業の代行や配達業務を山立会で請け負うことに。1年余り経たタイミングで、木滑なめこの前オーナーから事業承継の話があり、木滑なめこの製造販売を山立会で行うことになり、安定した収入源の柱ができ、現在の同社の売上の7割を木滑なめこが占めている。
そうした安定基盤ができたことから、ジビエ料理を提供する山立会食堂の運営をスタートする。メニューはジンギスカン定食、でけえなめこのバターホイル焼き、ジビエ焼肉定食など、1000円程度で白山麓のジビエを堪能できる。現在は人手不足のため土日の昼のみの営業。山立会で飼育している白山サフォーク(羊)はまだ頭数が少なく、令和6年度までは毎年10頭程度ずつの出荷に留まるが、令和7年度以降は毎年30~40頭出荷を目標に掲げる。自社のジビエ商品は、自社食堂で消費するウエイトが圧倒的に高く、一部は県内の道の駅で販売し、金沢市内のホテルや都内の居酒屋などから時々注文があるとのこと。ジビエは獲れる時と獲れない時で波があるため、供給量が不安定で提供できる量が読めない難しさがある。なおかつ近年は豚熱が発生していることから食用にできない年もあり、コンスタントに注文が入った場合には対応できない難しさもある。
スタートアップビジネスプランコンテストいしかわ2019でファイナリストになったことで、石川県産業創出支援機構(ISICO)とのつながりができ、定期的に経営指導を受けられることになり、ビジョンの実現に向けて邁進している。里山にかかわる人たちが、白山麓の里山は最高だよと胸を張れる状態を創り出すことを実現するためには、ジビエだけ取り組んでいても結果は出ないため、里山に関わるさまざまな事業を同時並行して、少しずつでも前進させていかなければ、誰かが代わりにやってくれるわけでもなく、将来ビジョンを形にしていくためには、どんなやり方がベストなのか試行錯誤の只中である。そうした取り組みの中の一つが、ISICOの補助金を活用し、以下の里山総合会社の視察・研修プランを商品化。
1.里山総合会社「山立会」全体の事業紹介
料金 30、000円 10名まで 追加1名につき2、500円
4~20名 講話45分+質疑15分
2.ジビエを通じた獣害対策
料金 30、000円 10名まで 追加1名につき2、500円
4~20名 講話45分+質疑15分
3.ひつじ放牧と耕作放棄地対策
料金 20、000円 10名まで 追加1名につき1、500円
【施設見学・体験】
1.木滑なめこ工場見学
料金 1名1、500円 2~ 6名 所要時間1時間
2.羊ふれあい体験(6月~11月)
料金 1名1、500円 2~20名 所要時間1時間
3.狩猟体験(12月~3月)
料金 1名3、000円 2~20名 所要時間2時間
4.山立会の現場すべて見るコース
料金 1名2、000円 2~16名 所要時間1時間半
「まだまだ事業として全てが軌道に乗っていないため、十分な給料を払える状況にないことや仕事に対する価値観の違いなどから定着率が低いのがネックです。現在は正社員が6名、パートが8名体制ですが、まずは会社の目的・進む方向を社員としっかり共有することが大事だと考えています。全力で仕事に取り組む私のような考え方と、ワークライフバランスを求める考え方など、価値観は社員によって異なります。各社員の価値観や人生目標を尊重しつつ、求人する際に里山総合会社として、白山麓の自然保護や中山間地の活性化など、私が思い描く将来ビジョンと経営理念を十分に理解してもらった上で入社してもらう方向で、慎重に人材確保に取り組む必要性を痛感しています。と同時に、社員一人ひとりに数値目標を設定し、それを達成した時の充実感、達成感を味わうことで、次のステップにつなげていく経営を目指したい。」と有本さん力を込める。
地元集落の人たちに山立会の取り組みを理解してもらう一環として、山立会食堂に招待し、羊料理の試食会を開催するのを皮切りに、令和6年4月からはバードハミング鳥越の温泉以外のバーベキュー場やテニスコートの指定管理の業務を請け負う。そうした場で、山立会が白山麓で育てた白山サフォークの新鮮な羊肉をバーベキューで味わってもらうイベントをゴールデンウィーク前後に開催する予定である。猪肉やクマ肉、鹿肉といったジビエを好む人の潜在需要はそれなりにあるものの、山立会でそうしたジビエを販売していること、食堂で料理を提供していることを、もっと多くの人に広く知ってもらうことが何よりも重要であり、認知度を高めることが山立会のこれからの成長を左右する大きな鍵を握る。イベントの開催やSNSを活用した情報発信を駆使し、白山麓の里山の魅力を発信し、次代を担う若者世代が里山へ移住したくなるようなさらなるチャレンジにエールを贈りたい。
有本 勲さん
商号 | 合同会社 山立会 |
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代表者 | 有本 勲 |
住所 | 白山市木滑西1番地 |
電話 | 076-255-5579 |
URL | https://yamadachi.com |