本文
↵
人生には数多の節目や記念日がある。お食い初め、誕生日、入学、卒業、就職、昇進、結婚、新築、出産、退職、そして人生最期の葬儀まで、さまざまな節目、記念日に家族や親戚が集まっての会食は欠かせない。社会人になれば、忘新年会、歓送迎会、接待で会食する機会がたびたびある。加賀市大聖寺において1975年の創業以来、地元の常連客に愛されている加賀料理ばん亭。二代目水口清仁代表取締役にお話を伺った。
1975年10月、京都の料亭での修業を経て独立した、水口社長の父・清隆さんが、加賀市公設市場の敷地内に鉄板焼きの店「ばん亭」を創業したのが、今日のはじまり。ばん亭の名前は鉄板の板が由来。和食の修業をしてきたこともあり、割烹の店を持ちたかった初代は3年後の78年9月に加賀市役所前の現在地に移転し、「割烹ばん亭」をオープンする。以来、地元の常連客に支えられ、日々のランチや夜の宴席で大聖寺を代表する料理店に。常連客や地元企業への仕出し弁当の配達、披露宴や法要の仕出し料理の提供と、幅広く顧客のニーズに対応してきている。2011年に京都の料理屋で修業してきた長男の清仁さんが二代目を継ぐ。初代の時から、片野の鴨池で坂網猟にて捕獲される天然の真鴨を使った鴨料理を本格的に始め、会席料理だけでなく鴨料理の店としても知る人ぞ知る存在に。
加賀市にある片野の鴨池では、遡ること約300年前の江戸時代は元禄年間に、大聖寺藩の武士たちの真冬の鍛錬の一つとして、坂網を空高く放り上げて真鴨を捕獲する坂網猟が始まったとの伝承が残り、その坂網猟が今も受け継がれている。現在の猟期は11月15日から2月15日までの3か月間に限られており、その間に200羽程度しか獲れない貴重なカモ。坂網猟で捕獲された鴨は、一羽しか捕まえないため、網をかけて何羽も一斉に捕獲した場合に鴨同士が暴れて身が傷つくようなことがないのが最大の特徴。しかも、夕暮れ時に鴨池から近隣の水田へ餌を食べに飛び立つ食事前の鴨を狙って捕獲することから、内臓に残っている食べ物がほとんどないため、内臓からの腐敗を極力抑えられることで、臭みのない状態が保たれるという。捕獲した真鴨は下処理して冷凍保存される。坂網で捕獲した天然鴨といえども、痩せている個体や毛が抜けて傷み始めている個体、身の重さが不足しているなど各個体でバラつきがあるため、全てが合格点というわけではない。坂網鴨だけでは量が不足するため、全国から網で捕獲する天然の生け捕り鴨を仕入れて補完している。この良質な鴨のロース肉は鍋にすると絶品で、その旨味を十二分に堪能できるのが、郷土料理のじぶ煮をヒントに考案した同店の看板商品であるオリジナルの鴨治部鍋である。鍋に合わせる野菜も、可能な限り地元の加賀平野の恵みである野菜や山菜を使用し、四季の変化をお客さんに楽しんでもらうことを心掛けている。
遡ること10年あまり前、加賀市が伝統猟法を守ることを目的に、坂網カモをブランド化すると同時に、若い猟師を育成する取り組みをスタートさせたことで、若い猟師も10名あまり育ってきていて、60代から70代のベテラン猟師と半々ぐらいの比率になっている。坂網は竹製で極力軽く作られているため、想像するほどの力仕事ではないそうだが、何分にも冬の極寒の猟場でカモが飛び立つタイミングを待っている間が寒さとの闘い。ベテランになればなるほど、無駄な力を入れず絶妙のタイミングで坂網をコントロールして空に放つ、文字通り職人技の世界が静かに繰り広げられる。ここ数年の捕獲数は年間200羽前後で推移しているものの、昨今は急激に地球環境が変化してきているだけに、さらに捕獲数が減少するのではないかと水口社長は危惧している。
同店のホームページでは、オンラインで坂網鴨鍋セット、天然鴨鍋セット、鴨ロースなどが購入できるお取り寄せを掲載しているが、貴重な坂網鴨鍋セットは特別限定商品のため、ほぼsoldout状態。それでも、冬場の狩猟期間中であれば、運よく販売中の表記になっているタイミングもあり、坂網鴨は希少な特別限定セット商品だけに、全国のファンから注文が入るという。オンラインショップは、年間で100件程度の注文に対応しているが、お店での料理の提供を最優先しているため、在庫に余裕がない期間はsoldoutの表示が続くことに。冬になって鴨料理のマスコミ取材があると、それを見た人からの注文が一気に入ってくるものの、肝心の鴨が入荷しないと販売できないため、断るケースもあるようだ。購入した人が美味しい鴨鍋を作れるように、お取り寄せのページにYOUTUBEチャンネルの美味しい鴨鍋の作り方をアップしている。
昼食、夕食で鴨料理を注文するお客さんは加賀市外や県外からのウエイトが高く、会席料理や夜の宴会は圧倒的に地元の常連客の利用が多い。そのため、そうした常連客に長年支えられ、積み重ねてきたばん亭のイメージを大切にしてきている。
二代目の社長になったから料理や味付けがガラリと変わったと言われるようなことがないよう、伝統の味とサービスを実直に守っている。それは77歳の初代が、まだ現役の料理人として厨房に立っていることもあり、昔からのばん亭の味を求めて来店する常連客の期待を裏切らないことを肝に銘じる。「父は根っからの職人で、料理をしている時が一番楽しいようで、厨房に立つとイキイキとし、毎日頑張っています。」と水口社長は顔をほころばす。同店は、圧倒的に常連客の比率が高いことから、常連客の好みや味の嗜好など、それぞれのお客さんの要望にきめ細かく対応することが商いのモットー。他方で「どちらかと言えば新規のお客さんに向けての情報発信や企画商品を提案するなど、新たなお客さんを開拓する努力も必要だと感じています。」と自省する。
コロナ禍前に比べると、坂網鴨・天然鴨の仕入れ価格はもちろんのこと、料理に使う野菜類の仕入れ価格も上昇してきている。そのため、お客さんの理解を得ながらメニュー価格の見直しもしてきている。通常は二人の仲居さんと女将で接客し、大きな宴会などがある繁忙日はパートさんに応援にきてもらう体制で回している。調理補助の料理人も日々の仕事をこなすのにぎりぎりの状況で、人手不足感は否めない。それを初代以下、家族がフル回転で補いながらの商いである。
ばん亭のある場所は、大聖寺駅から至近なことから、電車を利用して加賀市外から来店するお酒を飲む常連客がある程度いるという。これまで金沢市内で鴨料理の店を出店しないかとの誘いもあったものの、天然の鴨はそもそも量が確保できないこと、生け捕りされた天然の鴨しか使わないこと、長年大聖寺の店を地元の常連客に利用してもらっていること、そうしたこだわりを強く意識していることから、金沢に店を出すことは頭の中にないようだ。北陸新幹線が敦賀まで延伸になり、既存の小松空港との相乗効果で、県外から鴨料理を目当てに来店する客数が順調に伸びてきているとのこと。
令和7年は、ばん亭が創業してから50年の節目の年。10月10日が創業日であることから、秋ごろに何かお客さんに喜んでもらえるようなことがやれないか、これから社内で検討するところ。初代が創業から50年間守ってきたばん亭の味とおもてなしを受け継ぎ、家族で盛り立ててきている地域密着のお店だけに、これまで築いてきた半世紀にわたる常連客との信頼関係、店に対する愛顧を糧にしつつ、新規顧客も開拓することで加賀に鴨料理のばん亭ありと、万人が周知する存在感を次なる100年に向けて継続発展させてもらいたい。
水口社長
商 号 | かが 幡亭 |
---|---|
代 表 | 代表取締役 水口清仁 |
住 所 | 加賀市大聖寺東町4丁目11番地 |
電 話 | 0761-73-0141 |
URL | https://bantei.co.jp |