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人生100年時代とは言うものの、50歳近くになると、健康で働ける間に第二の人生をどう生きるか、脱サラして起業するか、どこを終の棲家とするか、都会を離れて田舎暮らしをするか、何をして稼いでいくか、そんなことを考える始めるタイミングである。今回ご紹介する平塚覚(あきら)さん・久美さん夫妻も、東京でのサラリーマン生活に区切りをつけ、田舎暮らしを選択し、縁あって加賀市橋立の地に移住し、カフェ彦兵衛をオープンした。
東京の自動車学校で教習指導員をしていた平塚覚さんと教習所紹介会社に勤めていた久美さん夫妻。ずっと東京で生活していくのか、元気なうちに地方でのんびり暮らすのか、そんなことを考えるようになり、どこかいい所がないだろうかと、地方の売り物件情報を毎日グーグルで検索し、全国あちこち旅していた中で、文字通り偶然、全く移住先の候補になかった加賀市橋立の物件に巡り合う。一目ぼれした夫妻は、季節ごとに、晴天の日、雨天の日といろいろ環境条件を変えて橋立に通い、現地を何度も確認すると同時に、不動産屋ともやりとりする。建物は十数年空き家だったため、かなり傷んでいたが、北前船の里資料館の真ん前という立地が面白いのではと購入する。母屋と蔵と小屋の三棟で構成され、母屋は片付いていたものの改築には費用が嵩むため、小屋を改築してカフェをオープンすることに。手つかずの蔵の中には、北前船の船主であった久保家の資料が残されていたことから、資料の一部を店の一角に展示することで、久保家の歴史や生活を知ってもらう展示スペースを設け、カフェ彦兵衛(橋立五大船主の久保彦兵衛より命名)を2022年11月30日にオープン。昨年からワンちゃん同伴で入店できるカフェにしたことで、愛犬家の中では人気のお店としてSNSで拡散されている。
コーヒーは生豆から自家焙煎し、一杯の価格ランキングで記載すると、インドネシア コピ・ルアク 時価、ブルーマウンテンNo1. 2,800円、ハワイ・コナ 2,500円、 イエメン マタリモカクラシック 1,200円、 ゲイシヤ 800円、さくらブルボン 700円など10種類あまりのコーヒー豆を揃えている。オープン当初は、普通の喫茶店と変わらないコーヒーメニューを提供していたが、「折角、北前船の里資料館の前にあるだけに、資料館を訪れる人は北前船に関心を持って来館しているから、何か北前船に関連するメニューをとの思いから、橋立船主五人衆に因んだメニューを考案しました。」と平塚さんは力説する。橋立に移住するにあたり、地元の歴史をかなり勉強されたことが窺い知れる。橋立船主五人衆珈琲と銘打った、久保彦兵衛、西出孫左衛門、久保彦助、酒谷長兵衛、増田又右衛門の5種。コーヒー豆は、同じ豆を使用しているが、焙煎の度合いや挽き具合を全て変え、点滴ドリップで抽出することで、味の変化を産み出し、同じ豆を使っているが、濃さと風味が全く異なる一杯600円のカフェ彦兵衛こだわりのラインナップ。祖父の代から平塚家で受け継がれてきた100年物の南部鉄瓶で沸かすマイルドなお湯が旨さの決め手。ここへきてコーヒー豆の輸入価格が高騰していることから、一部メニューは値上げ予定とか。
オープンから2年余りは、能美市の加賀丸いもを生地に練りこんだうどん、そばを看板メニューにしていたが、昨年からラーメンを始めたところ、圧倒的にラーメンの注文が多いことから、うどん、そばを一旦休止し、今はラーメンが看板メニュー。出汁には北海道の昆布と煮干しを使用し、ホタテラーメンには北海道のホタテを使用している。加賀市大聖寺は坂網猟で真鴨を獲ることで有名だが、さすがに坂網猟で獲れた鴨は使えないため、国内産の鴨肉を使った合鴨ラーメン 1,200円、北前船は瀬戸内海も航路にあるため、瀬戸内レモンも使ったレモンラーメン1,000円、イベリコ豚を使った自家製チャーシューのチャーシューメン1,200円、その他橋立ラーメン1,000円、レモンと合鴨つけ麺 1,200円、チャーシューつけ麺1,200円などがあるが、中でも一番人気はラーメンと国産牛皿、小鉢、香の物がセットになった宝船1,800円。本当は麺打ちもできる平塚さんだが、店舗のスペースが限られ、周囲を壁で囲った麺打ちスペースを確保できないことから、保健所から製麺所の許可が下りず、止む無く製麺業者から特製麺を仕入れている。
地元橋立で生まれ育った人に負けないくらい橋立の街を愛していることが、会話の端々に感じられるご夫妻は、営業時間中であっても隙間時間ができると、来店客の九割方は観光客のため、カフェ彦兵衛周辺の北前船で栄華を誇った船主の豪邸を案内しながら、橋立の歴史を語り部のように説明している。まるでベテランのバスガイドの説明を聞いているかと思うほど流暢な語り口に驚かされる。当初は移住先の候補にもなっていなかった加賀市橋立だが、巡り合った縁を大切にし、北前船の五大船主の一人である旧久保家の家を購入したことで、久保家の歴史を改めて学び、地元の人も知らないような知識を備え、歴史を知った上での橋立暮らしに満足し、周辺の街並みや自然環境に惚れ込んでいる姿を目の当たりにし、全く知らない土地に移住してこれほどすんなり馴染めるものだろうかと敬服するばかり。
母屋、蔵、小屋(店舗)を購入した時点で、母屋を改装して民泊をすることも考えたものの、伝建地区のため文化庁の許可が得られないと窓を作れないこと等から、母屋での民泊は諦めたが、宿泊施設をやりたいとの思いは温めていた。その思いが通じたのか、カフェから歩いて数分のところにある築15年の家を入手することができ、そこを改装し「プチホテル彦兵衛」として、令和6年12月にオープンした。ここは、1階に15.2畳のリビングと縁側、7畳の洋室があり、2階には桜の間:10畳洋室と+2畳のインナーテラス、菊の間:8畳の和室があり、この2部屋で宿泊できる。1階のリビングと縁側をビストロとして飲食店営業の許可を取得。7畳の洋室は、土産物と平塚さんが個人的にコレクションしたヴィンテージ品を販売するギフトショップとして活用。2階洋室の窓越しに、中庭にある南加賀唯一の原木であるハシタテキクサクラが眺められ、春の開花が待ち遠しい。プチホテルも予約すればワンちゃん同伴でランチもでき、6人で2部屋の貸し切りも可能だ。宿泊は、夕朝食付き、朝食のみ付きなど、2部屋でエコノミー、スタンダード、プレミアムの3つの宿泊プランを、1人一泊12,000円(税別)~準備している。予約は楽天トラベルにて受付中。
全く未知の土地である加賀市橋立に移住して3年目を迎える心境を伺うと、「何事もやらないと始まらないわけで、その点は全く後悔していません。ただ、どこの田舎でもそうだと思いますが、まだ我々はよそ者ですが、東京から来た私たちはそんなことは気にせず、それは割り切っていますから気になりません。」と笑顔で語る。北前船の里資料館に来る観光客は、資料館を観覧すると帰る人が多く、橋立の街並みをぶらり散策する人はほとんどいない。あまり知られていないが、昨今問題になっているオーバーツーリズムになっては困るものの、今はあまりに観光客が少なくて困っている。地元の加賀橋立まちなみ保存会が橋立マップを作成しているが、イラスト的過ぎて、距離感や時間が分からないことから、平塚さん夫妻が、カフェ彦兵衛からの距離と徒歩で要する時間を記載した手づくりのウォーキングマップを作成し、店の敷地内に立ててある。夏は暑い資料館から出てくると、目の前にかき氷の看板があり、冬は寒い資料館から出てくると、目の前にラーメンの看板がある。そういう意味では最高の立地だけに、あとは観光客がもっと橋立を訪れるような行政の誘客施策や情報発信の充実が望まれる。石川県の人たちも灯台下暗しで、実は橋立の魅力を知らない人が大部分であることから、平日・休日を問わず、是非とも橋立のカフェ彦兵衛を目指して出かけてもらいたい。
平塚久美さん、覚さん
商 号 | カフェ彦兵衛 |
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代 表 | 代表 平塚 覚 |
住 所 | 加賀市橋立町ラ63番地 |
電 話 | 080-8498-7517 |