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日本人にとって、幼稚園、小学校、中学校、高校、大学を経て、社会人になって働き始めてからも、日々の生活において、ある意味楽しみであるお昼のひと時に欠かせないのが、愛情のこもったお弁当ではないだろうか。お母さんや奥さんの愛情こもった手作り弁当、持ち帰り弁当、キッチンカー弁当、宅配弁当等々種類は様々ある。そんな中で、一般的にはあまり知られていないが、限られた業種の人たちの中では、知る人ぞ知るお弁当屋さんが「咲季亭」である。会席弁当づくり30年の(株)エー・ケー・フーズ代表取締役・西谷ノブエさんにお話を伺った。
もともとは昭和から平成にかけ、魚の卸業務からスタートし、飲食店向け食材の加工調理業を営んでいたが、折角、新鮮な魚が日々入手できることから、商いの幅を広げるべく、平成25年頃から弁当販売を始める。いざやってみると、弁当の世界は既存の業者が数多あり、こうした業者と弁当の価格競争をしていては利益がないことから、いろいろ試行錯誤していた中から高価格帯の会席弁当に辿り着く。運よく、その弁当が製薬会社の営業マンの目に止まり、取引のある開業医や勤務医といった医師への日々のお弁当として差し入れるニーズにマッチし、製薬会社が取引先に届ける会席弁当の専門店としての地位を確立する。
スタートした当時は、まだ世の中の景気も良く、製薬会社の接待交際費の予算枠も大きかったため、2000円、2500円、3000円の価格帯の弁当が日々100~200個あまり売れていた。美味しい弁当として医師の間で評判が良く、医師から製薬会社の営業マンに咲季亭の弁当を逆指名されるまでに。スタートからしばらくの間は、揚げ物、煮物、焼き物それぞれに職人を雇っていたそうで、担当部門ごとに手間暇をかけていたため、どんどん弁当のおかずが豪華になり、食材費がかかり過ぎて原価率が高く、利幅がないようなことにもなっていたという。現在は西谷さん姉妹とパートの4名で、朝6時頃からご飯を炊き、おかずに使う食材の仕込みをスタートし、昼前までに日々100食前後のお弁当を作り上げ、営業マンが受け取りに来るのを待つばかりに準備を整えている。弁当容器がずらりと並んだ盛り付け風景は圧巻である。野菜はできるだけ加賀野菜を使うようにしてきていたが、近年は野菜の価格が高騰しているため、原価率を抑えるため必ずしも使えないのが残念な様子。いわゆる化学調味料は使わず、からだにやさしい味付けを心掛けている。
景気のいい時は、製薬会社の接待交際費の予算がふんだんにあったものの、バブル崩壊、リーマンショックといった景気の荒波を受け、接待交際費の予算がどんどん縮小され始める。そうなると、接待用の弁当にも当然影響があり、少しでも安く作って欲しいとの要望が強まり、現在は一食1500円が定着しているとのこと。さらにロシアのウクライナ侵攻を契機に、様々な食材の値上がり、光熱費の高騰、揚げ油の値上がり等々、コスト高が続いている。さらに今年は、お弁当に欠かせないお米の価格も高騰しており、指定された価格帯でいかに見栄えが良く、満足感のあるお弁当を作り上げるか、日々工夫を凝らす。食材のロスが出ないよう注文個数で必要な分のみ食材を仕入れているのは言うまでもない。
同社にとって、病院が得意先であるため、コロナ禍になり、どこの病院も外来者お断り、病院の中に入れない状況となり、自動的に弁当の注文もゼロに。「さすがにこればかりはどうしようもなく、行政の補助金を活用して何とか乗り越えましたが、休業状態が3年余り続きました。そんな中で、何か新しいことができないかと思い、冷凍食品の商品開発に取り組みました。」と前向き。電子レンジで温めるだけで食べることができる、カレーライス、カキフライ、フグのお茶漬け、鮭生姜丼、キノコ炊込みご飯などを商品化し、店頭に設置した自動販売機で販売中。
石川県産業創出支援機構の専門家派遣を活用し、百貨店や高級スーパーなどの売り先を紹介され、いろんなところに商品をプレゼンテーションしてきている。「どこに行っても、試食して美味しいと言ってもらえるものの、なかなかコンスタントな販売にはつながっていかないのが現状です。」と苦笑する。冷凍食品の課題は、販売価格、クール便代、ターゲットの3点。スーパーで売られている冷凍食品は有名メーカー製というブランド力があり、大量生産のため価格が安く、しかも県内スーパーでは定価の半額販売が常態化していて、価格的には大きな開きがある。道の駅や百貨店に置いた場合にはマージンが発生する。お土産品として販売すれば価格面はクリアできるかもしれないが、自宅へ送るには商品価格にクール便代千円あまりが加算され、かなり高いものになる。他にない商品でもない限り、わざわざ高い冷凍食品を買うだろうか。こうしたクリアしなければならない問題点が明確になってきている。
近年のSNS全盛時代にあっては、インスタ映え、いいね!と拡散してもらえる見せ方が不可欠。食品がヒットするためには、インパクトあるテレビコマーシャルが一番だが、それは資金力のある大手メーカーにしかできない。資金力、知名度がないメーカーの食品がヒットするきっかけになる一例として、有名な棋士がおやつで食べた、某有名プロスポーツ選手がうまいと絶賛しインスタにアップといった、メーカー側が全く予期していない情報発信がきっかけで、爆発的に注文が殺到する時代でもある。スーパーやコンビニに並ぶ弁当は高くても600円前後が主流の中で、1500円の弁当を置いても恐らく売れないだろう。そうした販売方法ではなく、まずは咲季亭の弁当の美味しさを知ってもらうことが肝要。そこで提案したいのが、口コミ力のある女性が集まる場だ。婦人会、町内会、PTA、生け花やお茶、踊りなどの習い事。こうした集いの場で、まずはお弁当を試食してもらう機会を設けてはどうだろうか。食べて美味しく、価格に納得感さえ感じてもらえれば、いろんな節目の時、家族の祝い事、ホームパーティーなどで注文が入るのではないだろうか。おいしいものを食べると人間は幸せを感じるもので、それは有名店のものかどうかは関係ない。美味しさと納得感。これをキーワードに邁進してもらいたい。
西谷ノブエさん
商 号 | (株)エー・ケー・フーズ (店名 咲季亭) |
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創 業 | 1991年 |
住 所 | 金沢市玉鉾3-48 |
代表者 | 代表取締役 西谷ノブエ |
電 話 | 076-292-3324 |
URL | https://saki-tei.com |