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金沢市三馬の日本赤十字社金沢赤十字病院の向かい側に、今年10月に創業64周年を迎えた手打ちそば、自家製うどんの店「天一屋」がある。両親が営んできた商いを遡ること25年前から手伝い、現在は二代目主人として店を切り盛りする上野壮馬さん。飲食業界が苦境に陥った厳しいコロナ禍をようやく乗り越え、知恵と工夫で事業に邁進中の上野壮馬さんに胸の内を伺った。
昭和36年、金沢市十一屋町で壮馬さんの両親が飲食店を創業。町名の十一屋の十を英語にするとテン、さらに天下一の思いも加味し、「天一屋」の店名に。十一屋町で10年余り商売したのち、昭和40年代後半に現在地に移転する。上野家は3人兄弟で、3人とも店の向かいの金沢赤十字病院で生まれる。壮馬さんは末っ子のため、当初から家業に興味はなく、後を継ぐ気もなかったという。そんな壮馬さんだったが、3年余り会社勤めをしたものの、やはり自分で商売したいと思うようになり、後を継ぐことを決意。長野の軽井沢にある蕎麦屋に修業に行き、平成12年に戻り二代目として働き始める。

何よりも出汁へのこだわりは強く、昆布は北海道利尻産のものを水に浸すこと4時間、そこからじっくりと火を入れ、1~2時間出汁を取り、昆布を取り出したところに、サバ節、鰹節、うるめいわしを順に入れ、仕上げに追い鰹節を入れて出汁取りは完了。そこから味つけをして冷ますまで、トータル8時間余りを要する長丁場。天一屋こだわりの商いの命の出汁が完成する。出汁の材料である昆布は、利尻産の天然物一等昆布を使ってきていたが、近年は入手困難な状況になってきたことから、同じ利尻産天然昆布で、味的に全く遜色のない三等昆布に切り替えている。これから先を考えると、地球環境の変化で海の中も大きく変わっていることから、危機感を抱きながらの日々である。

一般的にそば粉と言えば国産が推奨されるが、国産でもその年によって出来不出来のバラつきが大きい。そんな観点から国産だけでなく、海外産も含めてそば粉をいろいろ試した中で、毎年収穫量が安定していて、なおかつ高品質で香りもいいことから、アメリカワシントン州産のそば粉を使用している。国産の場合は、今年の米価格の高騰のように、収穫量によって価格が大きく変動すると、店頭のメニュー価格を値上げせざるを得なくなり、結果としてお客様に迷惑がかかる。それはできるだけ避けたいとの思いが強い。

今年10月の64周年は、ランチのセットを64周年記念の640円という特別価格で提供したが、その直前にインスタのアカウントを乗っ取られた影響で、1000名あまりいたフォロワーにその情報発信が届かなかったこともあり、前年の63周年のランチ時の70名には及ばなかったと悔やむ。新たなアカウントを取得し、これからまたフォロワーを増やしていくべく邁進中。同時並行してグーグルマップを活用し始めたところ、地図アプリで検索してくれる人が多く、効果を感じている様子。ランチメニューは日替わりで毎日変えるため、その情報は毎日更新し、臨時休業などの情報も日々配信し、時には他の飲食店で食事したスナップ写真をアップしたりもしている。SNSで日替わりメニューや季節限定メニューを配信すると、そのメニューの注文が増えることもあり、それなりの効果を実感している。同店のランチタイムの主要顧客層は、30代から40代のサラリーマンのため、注文を受けてから短時間で提供できるメニューに絞り込み、忙しいサラリーマンを応援している。

コロナ禍の一年目は、テイクアウトと出前しかできず、売上が立たない分を様々な給付金や補助金を活用して何とか乗り切った。「あの時は何をやっていたのか、記憶にないぐらい何もできない日々だった。」と述懐する。コロナ禍が明けてから自分の店の軸をどこに持って行くか、ここだけは譲れないという軸の必要性を痛感し、ISICOの専門家派遣を受けながら、何よりもこだわりの出汁、麺類は手作りしていることが大きな軸で、これだけは堅持することを再認識する。その上でオペレーションのスムーズなやり方を導入することで、お客様にいかに短時間で提供できるかを突き詰めて考えた結果、調理に手間のかかる丼物はやめ、パートでも対応できる天ぷらのみに絞る。その間に壮馬さんはそば、うどんの準備ができ、大幅に調理作業が簡略化でき、オペレーションがスムーズになった。さらに、注文を聞きに行くスタイルでは、手間がかかることから、スマートフォンで注文ができるモバイルオーダーを導入。これにより、お客様側で注文が完了するため、その分スタッフがお客様に対する気遣いをする余裕ができ、接客面でも大きくプラスになっている。

これまで店売りだけに売上を頼っていたことから、テイクアウトできる冷凍蕎麦の販売にも力を注いでいる。打ち立ての蕎麦を茹でて、それを冷凍保存することで、お客様は電子レンジで解凍し、添付のそばつゆパックを温めてかければ食べられるというもの。時間のある時や、定休日を活用して冷凍蕎麦を作り置きし、注文があれば即提供できる体制を整えている。とりわけ、年末の年越し蕎麦に向けて、店内だけでなく、持ち帰って自宅で食べてもらう、知人にプレゼントしてもらうという、新たな需要を喚起したいとの思いが強い商品。鍋でお湯を沸かして茹でる必要がないため、洗い物が最小限で、食べたい時にレンジで解凍する手軽さが受け、なかなか好評のよう。2食入り1パック1、800円、2食入りきのこ蕎麦は2、500円で販売。冷凍蕎麦の販売は予め時間のできた時に作って保存しておくことができるため、心身ともにかなりの負担軽減にもなっている。

これまで会計士に経理を任せていたが、自ら数字をしっかり見て、内部留保を確保していくことを目標に掲げる。その上で、これからの10年を見据え、店売り、冷凍蕎麦販売、インバウンド向けの手打ちそばアクティビィティーの三つの売上の柱を作る考えだ。それによって、人件費を可能な限り抑えつつ、確実に利益が出せる基盤を固めていくことが、個人商店が生き残っていくために不可欠な事と肝に銘じる。これからもこだわりの出汁、愛情込めた手打ちのそば、手づくりのうどんで、天一屋ファンを増やしていくと共に、父の背中を見て育った子息が、三代目として一緒に厨房に立つ日がそう遠くないことを願ってやまない。

| 商 号 | うどんそば 天一屋 |
|---|---|
| 代 表 | 上野 壮馬 |
| 住 所 | 金沢市三馬2-244 |
| 電 話 | 076-241-3910 |