本文
いしかわ産業化資源活用推進ファンド(活性化ファンド)事例集
2017.SPRING|VOL.02
活性化ファンドのおかげで新たな試みにも
思い切ってチャレンジできました。
【活性化ファンド採択メニュー】
平成20年度 農商工連携事業(農業参入ビジネスモデル構築支援)
平成22年度 農商工連携事業(一次加工施設整備支援)
四十萬谷本舗が平成22年に活性化ファンドを活用して開発した「能登いか野菜づめ」の売れ行きが好調だ。これは、能登町の小木港で水揚げされたイカに金時草やニンジン、キャベツを詰め、糀(こうじ)で漬け込んだ商品だ。甘酢味からスタートし、現在はキムチ味、カレー味の3種類をラインアップする。
調理の要となっているのが、活性化ファンドの助成金で導入した大型スチームコンベクション(電気式蒸気加熱調理機)だ。この機械でイカを蒸すことにより、ゆでた場合に比べ、柔らかくぷりぷりとした食感に仕上がる。
また、平成26年に発売した「塩糀炙(しおこうじあぶ)り」も好評を博している。こちらはブリや本マグロ、能登産のフグを自家製の塩糀で漬け込んだ後、表面を火であぶった商品だ。塩糀によって引き出された魚の旨みやあぶりの香ばしさが際立つ逸品である。
商品化に際して活躍するのが、活性化ファンドの助成金で設置したプロトン凍結機だ。この機械では、冷凍時に細胞の破壊を最小限に抑え、解凍時に素材から旨み成分が流れ出るのを防いでくれるため、新鮮な状態のおいしさや食感を維持できる。
四十萬谷本舗と言えば、かぶら寿しに代表される漬物の老舗である。その四十萬谷本舗がこうした従来の漬物とはひと味違った商品を開発する背景には、漬物市場の縮小がある。
四十萬谷正久社長によれば、この15年間で国内の漬物市場は5,000億円から3,000億円に縮小し、同社でも売り上げの伸び悩みに直面した。そこで開発したのが「能登いか野菜づめ」や「塩糀炙り」というわけだ。
開発にあたっては140年以上にわたって培ってきた漬物の技術がしっかりと生かされている。例えば、「能登いか野菜づめ」では、まず、野菜を軽く塩漬けし、イカに詰め込んで、さらに「いしり」を加えた合せ酢で漬け込む。こうすることで、熟成して旨みが増し、味もまろやかになるのだ。
これらの商品は、同社の直営店やネットショップ、金沢市内や首都圏の百貨店で販売されている。現在では同社の売り上げの約14%を占めるまでになっており、漬物の伸び悩みを補い、会社の成長の新たな牽引役となっている。
もちろん、主力である漬物でも新たな手を打っている。その一つが今年からスタートさせる「かぶら寿し」の通年販売である。
かぶら寿しは冬の味覚として知られるが、北陸新幹線の開業以降、金沢を訪れる観光客から冬以外の季節でも食べたい、購入したいとの要望が数多く寄せられるようになった。そこで、同社では契約農家の協力のもと、夏場にもカブラを収穫できるように生産体制を整えたのだ。
本来、冬に収穫するカブラを、夏に収穫できるよう栽培するには高い技術が要求される。これを可能とした要因の一つは同社が運営する自社農園である。
四十萬谷本舗では平成21年に農業に参入。現在は金沢市内と白山市内の2カ所に1.2ヘクタールの農地を借り、カブラをはじめ、キュウリやナス、季節に応じてヘタ紫なすなど加賀野菜も栽培する。参入時には活性化ファンドの助成金も利用した。
「もちろん今でも原材料の多くは契約農家から仕入れています。ただ、品質やサイズ、数量、収穫時期など、私たちは契約農家に対し、さまざまな要望をするわけですが、一方的に口を出すだけでなく、私たちも同じ苦労をして、自分たちが使う野菜についてもっと勉強したいと考えて、農業に取り組み始めました」(四十萬谷社長)
もちろん、当初は苦労の連続で、雑草と作物の芽の見分けが付かず、大切な芽をすべて取ってしまうなどの失敗もあったが、年々栽培面積や栽培品目を拡大させた。
また、メーカー自らが泥にまみれて悪戦苦闘する姿勢を示したことで、契約農家が共感し、積極的に協力してくれるようになり、栽培技術の向上が実現し、夏の収穫が可能となった。
通年販売によって、経営の大黒柱であるかぶら寿しの売り上げをさらに伸ばすとともに、将来的には海外での販売も視野に入れている。
新商品開発や農業参入を進める際に活用した活性化ファンドについて、四十萬谷社長は「資金が潤沢ではない中小企業はなかなか投資に踏み切ることができず、アイデアを具現化することができないが、助成金のおかげで思い切ってチャレンジすることができた」と振り返る。
これからも「A」(Agriculture/農業)、「B」(Biotechnology/発酵技術)、「C」(Culture /食文化)を経営の三大要素に据え、「これらの要素が重なり合った分野で商品を開発することで事業を発展させたい」と意欲を燃やす四十萬谷社長。老舗ののれんを守りつつ、どのように消費者のニーズや今の時代の味覚にマッチした新商品を生み出していくのか。これからの取り組みにも大いに期待が高まる。
能登いか野菜づめ
柔らかくぷりぷりとしたイカとシャキシャキとした野菜の食感によるハーモニーが特徴。隠し味として能登特産のいしりが使われている。写真は一番人気の甘酢味とピリッと辛いキムチ味で、このほか「子どもたちにも食べてほしい」とカレー味もラインアップする。切り分けて、そのまま食べられるのも便利だ。
・長年培った発酵技術と地元の素材を組み合わせて商品開発
・鮮度の維持、食感の向上を実現するため最新機器を導入
・農業参入で農作物への理解深め、栽培技術を高度化
企業名 | (株)四十萬谷本舗 |
---|---|
住所 | 金沢市弥生1丁目17-28 |
TEL | 076-241-4173 |
事業内容 | 漬物、味噌、醤油、佃煮、製造販売業 |
設立 | 明治8年 |