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いしかわ産業化資源活用推進ファンド(活性化ファンド)事例集
2017.SPRING|VOL.02
日本酒の魅力を
世界中の人々に伝えていきたい。
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平成21年度 産業化資源活用事業(商品開発・事業化支援)
平成28年度 産業化資源活用事業(商品開発・事業化支援)
老舗酒蔵として190年を超える歴史を持つ車多酒造。同社を代表する銘柄は、何と言っても日本酒「天狗舞」である。しっかりと酒米を熟成させたことによるとろりとした味わいには深みがあり、愛好家たちを魅了してきた。
しかし、近年は若年層などを中心に日本酒離れが進んでいることから、まずは飲んでもらうことが大切だと考え、平成19年に発売したのが新ブランド「五凛(ごりん)」である。
五凛は「なめらかなのど越し」「旨い」「飲み飽きしない」を三大コンセプトにしており、日本酒を飲んだことがない人たちへのエントリーモデルとして開発。酒米については、山田錦などの最高品質のものを用いた。あえて熟成させず、搾りから2~3カ月で出荷するのが特徴で、フレッシュさを全面に押し出し、若者らの味覚に合った食中酒に仕上げた。五凛には6銘柄があり、さらっとした飲み口と気軽さがうけて評判も上々で、10年前の発売当初に比べて出荷量は2倍に増えている。
また、この五凛は、平成27年12月から平成28年2月まで、全日本空輸の国際線ファーストクラスで提供する酒として採用された。上質な酒であるのに加え、五凛という商品名から3年後の東京五輪を乗客にアピールできると評価されたという。このラベルデザインについては、特別にファッションデザイナーのコシノジュンコさんに依頼した。積極的に外国人観光客らに売り込むことで、海外でも徐々に評判を高めている。
五凛の6銘柄の中でも、純米生酒「石川門」は石川県が開発した酒米「石川門」を「金沢酵母」※で醸した“オール石川”の酒だ。開発や販路開拓には活性化ファンドを活用した。
近年、各種コンクールでの評価を意識して華やか過ぎる香りを生み出す酵母菌が主流を成しているが、金沢酵母の香りはバナナやメロンに近く、あっさりとして軽いのが特徴だ。また、飲み口はすっきりしており、比較的淡い味付けの料理によく合う。
ただ、石川門という酒米は、他の酒米よりもろみで溶けやすく、製造の際には溶けすぎないよう細心の注意を払いながら、作業を進める必要がある。それだけ作り手の技術が問われるのだ。
試行錯誤を経て平成22年2月から発売し、今年で8年目を迎えた。酒販店や飲食店などからの予約が入るようになり、年間2,000~2,500リットルを生産するまでになった。
生酒であるため流通は国内に限られているほか、酒米の入手が困難であることから生産量を増やしていけないのが課題だ。それでも、地元産にこだわった商品をつくりたいとの思いがある。徳田耕二常務は「素材産地にこだわったワインを作るワイナリーのように、日本酒も原料となる米がどこで作られたのかは大事な要素だ。地元の米を使うことで物語性が生まれ、海外での競争力を生み出す」と、その理由を語る。
国内とは対照的に、海外では和食ブームなどを背景に日本酒の人気が高まっている。車多酒造でも五凛をはじめとした自社商品の海外の需要開拓に取り組んでおり、車多一成社長が自ら先陣を切って売り込んでいる。
主な取引先は中国やアメリカのほか、台湾、香港、シンガポール、タイ、韓国などだ。特にシンガポールでは、富裕層へのアピールに成功し、売り上げを順調に伸ばしている。
車多社長は「海外での売り込みは人と人とのつながりが重要であり、評判のいいレストランなどを紹介してもらって同行営業するのが基本。また、輸入業者などの売り手に自社商品を理解してもらわなければならない」と話す。
東南アジアで順調に販路開拓を進める一方、イギリスやフランスなどワイン文化圏のヨーロッパへの輸出はこれからだ。というのも、これらの地域では日本酒の認知度が高くないからだ。日本酒を広めるため、毎年イギリスなどを訪れ、見本市に出展するなどしている。
フランスのワインの輸出量が30%以上を占めているのに比べ、日本酒の輸出量は3%とまだまだ低い。車多社長は海外での日本酒販売の伸びしろはまだあると分析しており、「人口が減少する国内では、日本酒の需要増加はあまり期待できない。現在、海外の売り上げは会社全体で5~6%だが、五凛と天狗舞の両輪で10年後には10%にしたい」考えだ。
平成26年春から、同社では日本酒の醸造に関連した新規事業として、美容事業に乗り出している。
昔から日本酒を仕込んでいる杜氏の肌つやがいいことは知られている。その肌の美しさに関わるのが、日本酒に含まれる天然由来の保湿成分「α-エチル- D-グルコシド(α-EG)」である。そのα-EG研究の第一人者である金沢工業大学の尾関健二教授と徳田常務が白山菊酒認証審査委員であることもあり、美容事業に乗り出すことになった。
尾関教授が研究を進めたところ、α-EGには保湿だけでなく、さらなる効果があることが分かった。そこで、活性化ファンドを活用し、α-EGを多く含む純米酒を利用した新規商品の開発に取り組んでおり、平成29年度中には市場に投入する予定である。徳田常務は「日本酒は日本を代表する“ 国菌” である麹菌と複雑な発酵を経てできたものであり、多くの機能性成分が含まれていると推測できる。多くの人々に日本酒の良さを知ってもらいたい」と語る。
※北陸の地で伝えられてきた独自の酵母で、生成される酸が少ないためきれいな味の仕上がりとなり、吟醸酒本来の香りを生むのに適している。
五凛
純米生酒「石川門」
石川県農業総合研究センターが17年の歳月をかけて開発した酒米「石川門」は純米酒に適しており、香りが穏やかな金沢酵母と相性もいい。
・地元産の食材を使って物語性を生む
・将来を見越して海外需要を掘り起こし
・新たな分野に恐れずに挑戦
企業名 | 株式会社車多酒造 |
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住所 | 白山市坊丸町60-1 |
TEL | 076-275-1165 |
事業内容 | 清酒の製造、販売 |
創業 | 文政6(1823)年 |