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いしかわ産業化資源活用推進ファンド(活性化ファンド)事例集
2017.SPRING|VOL.02
伝統的な技術や材料を用いることで、
プラスアルファの価値や満足感につなげたい。
【活性化ファンド採択メニュー】
平成21年度 産業化資源活用事業(商品開発・事業化支援)
平成26年度 産業化資源活用事業(商品魅力向上支援)
平成28年度 産業化資源活用事業(海外展開支援)
ハンドメイドの腕時計を企画、製作しているシーブレーンが活性化ファンドを活用して商品開発や販路開拓に取り組んだ腕時計「はなもっこ」シリーズ。伝統的な素材や技術を取り入れ、日本の美意識を表現したことなどにより、幅広い層の女性から人気を集めている。
同シリーズには大きく分けて三種類の文字盤がある。一つ目は、日本画を描く際に用いられる岩絵の具で彩色した文字盤で、繊細で優雅な和の色合いが特徴だ。
二つ目は、漆塗りを施した文字盤で、蒔絵(まきえ)や螺鈿(らでん)で彩ったデザインもある。
三つ目は、胡粉(ごふん)(貝殻を粉末にした顔料)を染み込ませた和紙を文様のかたちに切り抜き、銀箔や和紙で作った下地に貼り付けた「紋切(もんきり)」だ。
ベルトには革製に加え、草木染めの組紐を採用。錫(すず)と銀で作った合金製もある。ベルトは簡単に交換できるように作られており、ファッションに応じてコーディネートを楽しめる。
現在、銀座三越や西武池袋本店などで常時販売するほか、月2回ペースで首都圏の百貨店で開かれる催事で販売しており、発売から約8年で同社の売り上げの約60~70%を占める主力商品に成長した。
今でこそヒット商品となっている「はなもっこ」だが、発売当初の売れ行きは芳しくなかった。好転したのは発売から2~3年後のことである。この頃、シーブレーンの井波人哉社長は消費者の意見を参考にいくつかの改善に取り組んだ。
まずは文字盤である。当初の文字盤は岩絵の具や漆を塗っただけのもので、デザイン性を追求し、あえてインデックス(時間を読み取るための数字や目盛り、マーク)を付けていなかった。しかし、消費者から「時間がしっかりと確認できる方がいい」との要望が寄せられたことから、石川県が誇る金箔や蒔絵、螺鈿でインデックスを付けて時計としての機能性をアップさせた。
また、当初は和の雰囲気を強調するため、組紐のベルトを組み合わせて販売していたが、幅広い消費者の嗜好に合うように、革製のベルトを基本に据え、付け替えのバリエーションの一つとして組紐を提案するよう改めた。パッケージも当初の桐箱から、シンプルでモダンな紙製ギフトボックスに変更した。
こうした改善に取り組むことで、より多くの消費者に訴求できるようになり、売り上げも上向いていった。
当初は、知人を頼って商品をPRし、銀座三越と京都のホテル内にあるセレクトショップから販売をスタートした。その後、活性化ファンドの助成金を活用して出展した展示会をきっかけに、百貨店の催事に出店するチャンスをつかんでいった。催事では多い時には1週間で200万円以上売れることもあるという。
「うれしかったのは百貨店のバイヤーや販売員の方が気に入ってくれて、購入してくれたことです。販売員の方が着けてくれたことが呼び水となって、一般のお客さんが買いに来てくれることもよくあります。そうした販売員の方はお客さんに熱心に商品の魅力を説明してくれます。また、わざわざ金沢の工房まで来て、一つ一つ丁寧に手作りしている様子を丹念に取材していかれたネットショップの担当者さんもいらっしゃいました。やはり、そういう方がいらっしゃる店ほどよく売れますね」(井波社長)
展示会をきっかけに販路は海外にも広がり、約2年前から中国や台湾の商社とも継続的に取引している。パリで開催されるインテリア・雑貨の国際見本市「メゾン・エ・オブジェ」にも出展し、ヨーロッパやアフリカの企業にも商品を卸している。
同社のネットショップも有力な販路だ。とりわけ、昨年10月以降は急増していて、閲覧数は約5倍に、注文数は3~4倍に増えた。
注文が急激に増えた背景にあるのがツイッターによる情報の拡散だ。催事で「はなもっこ」のカタログを受け取った女性が「上品でかわいらしい」と商品の写真をツイッターに投稿。その投稿が次々とリツイート(転載)され、その数はなんと2万回を超えた。ツイッターを通じて「はなもっこ」を知った消費者から注文が殺到し、現在、納品まで3カ月待ちという状態が続いており、工房をフル回転させて増産に取り組んでいる。
また、平成28年度に再び活性化ファンドの採択を受け、今後、ラインアップを拡充させる計画だ。
現在、同社では女性用と男女兼用の時計を製造しているが、どちらも文字盤の形状は円形だけで、購入者の約90%を女性が占めている。そこで、文字盤が長方形のタイプも開発し、男性消費者を取り込んでいく方針だ。また、文字盤だけでなく、金具の部分に加賀象嵌や蒔絵を施し、さらに魅力をアップさせる。
「他のブランドに勝るような美しくてかっこよく、個性的な腕時計を作ることを第一に考えています。そこに伝統的な技術や材料を用いることで購入者にプラスアルファの価値や満足感を感じてもえれば」と話す井波社長。新作の登場が今から待ち遠しい。
はなもっこ
美しい和の色彩や漆・金箔といった伝統素材を生かしたハンドメイド腕時計「はなもっこ」。平成22年度には「石川ブランド優秀新製品」銅賞を受賞した。全部で60種類以上をラインアップし、写真左から「紋切 麻の葉」(30,800円/税別)、「こないろ 群青」(25,000円/税別)。
・美しさやかっこよさを追求してデザイン
・消費者の要望を取り入れ、商品を改善
・伝統的な技術や材料を用いて付加価値を提供
企業名 | (有)シーブレーン |
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住所 | 金沢市涌波1-9-5 |
TEL | 076-260-7123 |
事業内容 | ハンドメイドによる時計の企画、製作、販売 |
創業 | 平成6年11月 |